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東京地方裁判所 平成4年(ワ)3933号 判決 1996年3月25日

原告

甲野太郎

被告

右代表者法務大臣

宮澤弘

右指定代理人

小尾仁

外三名

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告は、原告に対し、五〇万円及びこれに対する平成四年三月一九日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  本件は、東京拘置所長が、同拘置所に未決勾留中の原告に対して、ノートや雑誌等を交付せず、また、刑事公判廷へのメモ用紙の携行を許可しなかったため、原告が、精神的苦痛を被ったとして、被告に対し、国家賠償法第一条に基づき、原告の精神的損害五〇〇万円のうち五〇万円及び訴状送達の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を請求した事案である。

二  判断の前提となる事実

1  当事者

(一) 原告は、平成元年三月九日より東京拘置所に勾留されている刑事被告人である。

原告は、昭和五五年五月九日に宇都宮地方検察庁から強盗致傷で起訴され、同年六月二一日に浦和地方警察庁から窃盗・建造物等以外放火で、同月三〇日に同検察庁から住居侵入・強盗・殺人・現住建造物放火で起訴され、これらは同年九月一六日併合審理となり、昭和六〇年九月二六日に死刑の一審判決を受け、同日控訴し、平成元年三月九日、川越少年刑務所浦和拘置支所から東京拘置所に移監された。

(二) 被告は、東京拘置所を管理、運営し、東京拘置所長以下職員を原告に対する拘禁の公務に従事させている。

2  ノートの不交付について

(一) 東京拘置所でのノート使用についての取扱

東京拘置所では、冊子「所内生活の心得」(以下「本件所内心得」という。)を設け、本件所内心得の第二(日常の生活)、十一(筆記)、1において「筆記を希望する人は、職員に申し出て所定の手続きをとること。」と規定し、同5において「ノートの使用にあたっては、別に定める心得に従うこと。」と定め、右各規定を受けて、願箋「房内筆記届」及び願箋「ノート使用許可願」をそれぞれ設け、遵守事項を具体的に定めている。

右「房内筆記届」には、別紙1記載のとおり、遵守事項として、①筆記は起床から就寝までの間とすること、…、⑤筆記したものはいつでも検査を受けることが記載され、これを遵守することを条件に筆記具の使用を認める扱いとなっている。また、右「ノート使用許可願」には、別紙2記載のとおり、遵守事項として①出願目的以外に使用しないこと、…、④検査のときは必ず提出すること、⑤書き終わったとき、又は、筆記を必要としなくなったときは領置すること、…、⑦筆記の内容が次の各号(ア 逃走・暴動等刑事施設の事故を具体的に記述したもの、イ規律違反行為の手段方法を示唆する等、施設の秩序びん乱をあおり、そそのかす内容のもの、ウ 施設の構造を詳述し、又は、職員を著しく誹謗する等公正な職務執行を阻害するおそれのある内容のもの、エ 他の収容者の犯罪を記述し、又は、動静を伝える等名誉を侵害する内容のもの、オ その他施設の規律及び管理運営上重大な支障がある内容のもの)に該当し拘禁目的に反し又は施設の管理上著しく支障があるものと認められるときは、その部分を削除し又は抹消する旨が記載され、これらを遵守することを条件にノートの使用を認めている。

(二) 事実経過

(1) 平成元年三月九日、原告は、東京拘置所へ移送され、同月一〇日、原告を収容する舎房において、担当職員が原告に対し、居房に備付けの本件所内心得に基づき所内生活において遵守しなければならない事項を告知した。

(2) 同年三月一四日、原告の実母甲野花子から原告に対してノート二冊(以下「本件ノート」という。)の差し入れがあったので、担当職員が、原告に対して願箋「ノート使用許可願」及び「房内筆記届」をもって交付を出願するように指導したところ、原告は、担当職員に対して、「このような願箋には署名指印できない。」と述べて、右願箋に署名指印をせず、右願箋による出願をしなかったため、本件ノートは原告に交付されなかった(以下「本件ノート不交付措置」という。)。

3  雑誌等の不交付について

(一) 東京拘置所での雑誌等閲読についての取扱

東京拘置所では、在監者の図書閲読の制限について、監獄法三一条二項を受けた同法施行規則八六条一項、「収容者に閲読させる図書、新聞紙等取扱規程」(昭和四一年一二月一三日矯正甲第一三〇七号法務大臣訓令。以下「取扱規程」という。)及び「収容者に閲読させる図書、新聞紙等取扱規程の運用について」(昭和四一年一二月二〇日矯正局長依命通達。以下「運用通達」という。)の規定する閲読の許可基準に基づいて、在監者の図書、新聞紙等の閲読の許否を審査している。

取扱規程三条一項各号は、未決拘禁者に閲読させる許可基準として①罪証隠滅に資するおそれのないもの、②身柄の確保を阻害するおそれのないもの、③規律を害するおそれのないものを挙げ、運用通達は、未決勾留者に対する閲読の許否の決定に当たっては、例えば、①罪証隠滅に利用するものであるか否か、②逃走、暴動等の刑務事故を具体的に記述したものであるか否か、③所内の秩序びん乱をあおり、そそのかすものであるか否か、④風俗上問題となることを露骨に描写したものであるか否か、⑤犯罪の手段、方法等を詳細に伝えたものであるか否か、に留意して内容を審査し、その閲読が拘禁目的を害し、あるいは当該施設の正常な管理運営を阻害することになる相当の蓋然性を有するものと認めるときは、閲読を許さないことと定めている。

ただ、取扱規程三条五項は、「収容者に閲読をさせることのできない図書、新聞紙その他の文書図画であっても、所長において適当であると認めるときは、支障となる部分を抹消し、又は切り取ったうえ、その閲読を許すことができる。」と規定し、右の場合の具体的交付手続について、取扱規程一一条一項は、「第三条五項に定める支障となる部分の抹消又は切り取り並びに、第一四条に定める切り取り部分及び閲読後の雑誌の廃棄について、あらかじめ書面によって本人の同意を得る。」と規定し、同意を得る方法については、運用通達七条は、雑誌を除く私本については、必要の都度、①閲読に支障があると認められた部分は、抹消され又は切り取られてもかまわず、②切り取られた部分は廃棄されてもかまわない旨の記載のある願箋「交付願(様式一)」を徴し、雑誌及び新聞紙については、最初の購入又は交付の願出時に、①閲読に支障があると認められた部分は、抹消され又は切り取られてもかまわず、②切り取られた部分並びに閲読後の雑誌及び新聞紙は、廃棄されてもかまわない旨の記載のある願箋「交付願(様式二)」をもって入所中に閲覧するものについての包括的な同意を徴する旨定めているので、東京拘置所においても、閲読に支障のある部分を含む雑誌を除く私本については、別紙3の願箋「交付願(様式一)」を徴し、抹消等の処理をした上で閲読を許可する個別の扱いをとり、雑誌及び新聞紙については、収容当初に別紙4の願箋「交付願(様式二)」を徴し、収容中の閲読を包括的に許可している。

(二) 事実経過

(1) 原告を東京拘置所に収容した翌日の平成元年三月一〇日、担当職員が原告に対し、東京拘置所での一般的な事務手続にしたがって、願箋「交付願(様式二)」を示し、各同意事項について包括的に同意するよう促したが、原告は、右願箋への署名・指印を拒否した。

(2) 平成元年三月二七日、原告が購入した雑誌「週刊読売(三月二六日号)」について、同所長は、取扱規程及び運用通達に基づき、二箇所に規律を害するおそれのある内容が認められると判断し、原告に対し、願箋「交付願(様式一)」をもって、当該箇所の抹消に同意することを求めたが、原告は、右願箋への署名・指印を拒否したため、右雑誌全体が交付されずに領置された。

(3) 同年三月三一日、千葉刑務所に収容中であった「千葉警備2004号」と名乗る者から原告に対し郵送で差し入れされた「天皇制打倒へ」と題するパンフレットについて、同所長は、取扱規程及び運用通達に基づき、一箇所に規律を害するおそれのある内容が認められると判断し、原告に対し願箋「交付願(様式一)」をもって、当該箇所の抹消に同意することを求めたが、原告は、右願箋への署名・指印を拒否したため、右パンフレット全体が交付されずに領置された。

(4) 同年四月一〇日、原告が購入した雑誌「週刊読売(四月一六日号)」(以下(3)記載のパンフレット、及び(2)、(4)記載の週刊誌を「本件雑誌等」という。)について、被告が取扱規程及び運用通達に基づき、二箇所に規律を害するおそれのある内容が認められると判断し、原告に対し願箋「交付願(様式一)」をもって、当該箇所の抹消に同意することを求めたが、原告は、右願箋への署名・指印を拒否したため、右雑誌全体が交付されずに領置された(以下これら三回の不交付措置を「本件雑誌等不交付措置」という。)。

4  刑事公判期日へのメモの携行不許可について

(一) 東京拘置所での法廷へのメモ用紙の携行についての取扱

東京拘置所では、法廷へのメモ用紙の携行を、物品の授受及び信書発受として捉らえており、本件所内心得の第三(裁判と出廷)、六(出廷時の心得)、1で「裁判に必要な書類、ノート又はメモ用紙等を、出廷のとき携行したい人は、前日までに申し出て許可を受けておくこと。」と規定し、願箋「メモ用紙携行許可願」を設け、これに、①用紙を綴じておき他人(弁護士を含む)とやりとりなどせず必ず全部持ち帰ること、②筆記具は法廷で裁判長の筆記許可を得てから職員より受け取り、閉廷後直ちに職員に差し出すこと、③筆記具を訴訟関係事項のメモ以外に使用しないこと、④記入した用紙には検印を受けること、といった内容の心得事項を記載し、在監者が法廷にメモ用紙等を携行したい旨の出願があった場合には、予め、右在監者に右心得事項の遵守を求めた上で、右願箋を徴し、右出願を受けた保安課当該処遇区において当該メモ用紙の検査を行い、問題がなければ携行出願を許可する扱いとしている。許可した当該メモ用紙は、出廷当日に戒護職員が公判廷に携行し、当人に渡し、公判終了後には、戒護職員が当人から当該メモ用紙を引き上げ、帰所後、当人が携行したものと同一物か否か、当人以外の者の書き込みがないか否かなどを検査し、問題がなければ当日速やかに当人に返している。

(二) 事実経過

(1) 原告は、平成元年四月一六日、担当職員に対し、翌一七日の刑事公判にメモ用紙を携行したい旨申し出て、別紙5のとおり、願箋「メモ用紙携行許可願」中、用紙に印刷されている心得事項①の「(弁護人を含む)」・「必ず全部持ち帰る」、同②の「閉廷後直ちに職員に差し出す」及び同④「記入した用紙には検印を受ける」の部分を削字した上で署名・指印して提出し、また、右の削字部分の書き直しをすることを拒否したために、東京拘置所長から権限の委任を受けた東京拘置所処遇区長吉田晃(以下「吉田看守長」という。)は、原告の出願を不許可とする処分を行い、原告は同月一七日の公判にメモ用紙を携行しなかった。

(2) 原告は、同月一八日、担当職員に対し、翌一九日の刑事公判にメモ用紙を携行したい旨申し出て、別紙6のとおり、願箋「メモ用紙携行許可願」中、用紙に印刷されている心得事項①の「(弁護人を含む)」・「必ず全部持ち帰る」、同②の「閉廷後直ちに職員に差し出す」及び同④「記入した用紙には検印を受ける」の部分を削字した上で署名・指印して提出し、また、右の削字部分の書き直しをすることを拒否したため、吉田看守長は、原告の出願を不許可とする処分を行い、原告は同月一九日の公判にメモ用紙を携行しなかった。

(3) 原告は、同年六月一三日、担当職員に対し、翌一四日の刑事公判にメモ用紙を携行したい旨申し出て、別紙7のとおり、願箋「メモ用紙携行許可願」中、用紙に印刷されている前書き部分及び心得事項①ないし④の部分全体を斜線で削字した上で署名・指印して提出し、また、右全体の書き直しをすることを拒否したため、吉田看守長は、原告の出願を不許可とする処分を行い、原告は同月一四日の公判にメモ用紙を携行しなかった(これら(1)から(3)まで三回のメモ携行不許可処分を以下「本件メモ携行不許可処分」という。)。

三  争点

1  本件ノート不交付措置の違法性

(一) 原告の主張

東京拘置所長が定めた願箋「ノート使用許可願」では、在監者が房内で所携のノートに記載する内容について拘置所の職員が検閲することの事前承諾を求め、それに承諾しないものにはノートを交付しないことになっており、東京拘置所長はこれに基づいて、原告に本件ノートを交付しなかった。この扱いは、憲法一一条、一三条に反し、思想良心の自由、集会、結社、表現の自由、通信の自由、学問の自由及び教育を受ける権利を侵害する。また、原告の刑事事件での被告人としての地位を脅かすものであり、憲法三二条、三七条に反するし、原告が何らの違反もしないのに予め予防的にノート使用を禁止したのは、原告に対して実質的に懲罰を加え続けているに他ならず、何ら正当な手続きを経ずに刑罰を科すに等しく、憲法三一条に反する。さらに、誓約書という形で半強制的にノートの使用方法まで指定することは、在監者の獄中における態度や性向などを様々に制限・制圧し個人固有の思想・良心を統制するものであるから、誓約書の存在自体、憲法一九条に反するものである。

(二) 被告の主張

(1) 監獄法施行規則八八条は、在監者の筆記具の所持、使用について、監獄の長の裁量権が及ぶことを規定し、東京拘置所長はそれに基づいて、本件所内心得を設け、その第二(日常の生活)、十一(筆記)、1及び5を定め、更に、願箋「房内筆記届」及び「ノート使用許可願」を設け、そこに記載してある心得事項を遵守することを条件にノート使用を認める扱いをしているものであり、右扱いは、限られた人的・物的配備の条件の中で、約一一〇〇名に上る未決拘禁者の罪証隠滅の防止及び身柄の確保並びに施設全体の規律及び秩序の維持を図るために合理的な取扱である。

(2) 原告は、居房内での記載のためのノート使用にかかる規定を遵守することを拒否したので、東京拘置所長は、原告に対して本件ノートを交付しなかったのであるが、仮に、原告に右規定の遵守に同意させないでその使用を認めた場合、処遇の公平さを確保するため原告のみならず全ての未決拘禁者に対し同様の扱いをすることを強いられ、未決拘禁者の罪証隠滅の防止及び身柄の確保並びに施設全体の規律及び秩序の維持を図ることに重大な支障が生じることになる。したがって、東京拘置所長の本件ノート不交付措置には合理性がある。

2  本件雑誌等不交付措置の違法性

(一) 原告の主張

東京拘置所長は、願箋「交付願(様式一)」、「交付願(様式二)」によって、事前に抹消又は切り取りについて同意を求め、これに同意しなければ抹消又は切り取りが必要でない部分も含め、本件雑誌全体についての閲覧を認めない扱いをした。この扱いは、憲法一一条、一三条、監獄法三一条に反し、思想良心の自由、知る権利、学問の自由を害する。また、原告が、刑事事件において死刑が違憲であることを訴えるための準備研究をすること及び民事事件で検閲の不当性を訴えて国家賠償訴訟を提起するための証拠を保全することを妨害するから、裁判を受ける権利も侵害するし、原告が何らの違反もしないのに予め予防的に雑誌等の閲覧を一部禁止したのは、原告に対して実質的に懲罰を加え続けていることに他ならず、何ら正当な手続きを経ずに刑罰を科すに等しく、憲法三一条に反する。さらに、誓約書という形で半強制的に記事の抹消、切り取りを求めることは在監者の獄中における態度や性向などを様々に制限、抑圧し個人固有の思想、良心を統制するものであるから、このような誓約書の存在自体、憲法一九条に反する。

(二) 被告の主張

原告は、願箋「交付願(様式二)」を提出することを拒んでいたため、本来であれば、監獄法三一条二項、同法施行規則八六条一項に基づく具体的運用として発出された取扱規程及び運用通達に基づくと、原告には雑誌等を交付しないことになるところ、東京拘置所長は、閲読に支障がある部分がある図書については、個々に願箋「交付願(様式一)」を徴することとして、原告に雑誌等を交付してきた。

本件雑誌等には、それぞれ一箇所又は二箇所に東京拘置所の規律を害するおそれのあると判断する箇所が認められたため、東京拘置所長は、原告に対し、個々に願箋「交付願(様式一)」を示し、抹消に同意することを求めたが、原告はいずれもこれを拒否したため、東京拘置所長は、やむを得ず、本件雑誌等を交付しなかったのであり、本件雑誌等不交付措置には、合理性がある。

3  本件メモ携行不許可処分の違法性

(一) 原告の主張

願箋「メモ用紙携行許可願」では、在監者が刑事法廷に携行するメモについて拘置所職員が記載内容を検閲することの事前承諾を求め、承諾しないものに対してメモ用紙の携行を許さないとなっており、吉田看守長は、これに基づいて本件メモ携行不許可処分を行った。メモの検閲についての事前の承諾を拒否したためにメモ携行を不許可としたこの処分は、憲法一一条、一三条に反し、思想良心の自由、表現の自由及び知る権利を侵害する。また、原告の刑事被告人としての地位を脅かすものであるから、憲法三二条、三七条に反するし、原告が何らの違反もしないのに予めメモ用紙の携行を禁止したことになるから、原告に対して実質的に懲罰を加え続けていることに他ならず、何ら正当な手続きを経ずに刑罰を科したに等しく、憲法三一条に反する。さらに、誓約書という形で半強制的にメモ用紙の検閲を承諾させることは、在監者の獄中における態度や性向などを様々に制限・抑圧し個人固有の思想・良心を統制するものであるから、誓約書の存在自体、憲法一九条に反する。

(二) 被告の主張

(1) 法廷へのメモ携行には、在監者が私物を宅下げ(在監者が外部に物を寄託又は贈与すること)する面と、在監者が信書を発受する面があるため、東京拘置所では、在監者が所持する物の授受に関する規制及び在監者が発受する信書についての規制を及ぼすことにしている。

宅下げは、領置を解除する法的な物の移動を意味し、監獄法五二条より、領置の対象になるものに限られ、かつ、その拒否は監獄の長の裁量に委ねられており、宅下げの手続については、監獄法施行規則一四〇条に基づき、領置品基帳への記帳が義務づけられている。また、物品管理法三五条、物品管理法施行令(昭和三二年一一月一〇日政令三三九)四一条二号は、監獄法四九条又は同五一条の規定によって領置した現金及び有価証券以外の動産について、物品管理法の準用を定めているので、監獄の長は、国の会計機関として在監者の自弁物品の適正管理を図るため、在監者の領置する物品の出納について、物品管理法二三条及び二四条の規定によらなければならないことを義務づけられている。

信書の発受については、監獄法四六条一項、五〇条、施行規則一三〇条一項、二項により、監獄の長は、在監者の発受する信書について検閲すること、及び拘禁目的又は規律秩序の障害となると判断される場合には、当該発受信の内容又は発受信そのものを認めないことができる裁量権を認められており、監獄法施行規則一三〇条二項、一三七条は、信書への検印とともに身分帳への記帳を義務づけている。

(2) 東京拘置所では、右の法的根拠に基づき、願箋「メモ用紙携行許可願」を設け、遵守事項を記載して、法廷へのメモ用紙等の携行に関する一般的な扱いを定めている。この遵守事項の中で、携行したメモは公判終了後職員に提出し検印を受けることを義務付けているのは、メモ用紙を第三者と不正に授受しなかったか否か、また、第三者が当該メモ用紙に書込みをしていないかを確認するために提出させ検閲し、問題のないことを確認の上、検印を押印することにしているもので、監獄法令に基づく管理上必要な措置というべきであり、この措置によって同所の職員が刑事被告人と弁護人の訴訟活動の内容を知りえても、勾留目的及び同所の規律秩序の維持上支障のある事項でない限り、国家公務員法一〇〇条に規定された守秘義務により他言することは禁止されているのであるから、自由かつ秘密の接見交通権を侵害するものではない。よって、願箋「メモ用紙携行許可願」の記載内容はすべて合理性がある。

(3) 本件では、東京拘置所長から権限の委任を受けた吉田看守長は、原告の出願に際して、右心得事項を遵守することを制約せずに右出願を許可した場合には、原告に対して法廷における第三者との自由な物の授受を容認することになり、同所の管理運営上支障を生じることが明らかであり、ひいては、拘禁目的の達成等に著しい障害が発生する恐れがあると判断し、右出願につき不許可処分をなしたものである。

仮に原告の出願を許すことになれば、戒護職員数が必要最小限であるために、出廷時において常態的に領置手続等の措置を講ずることができないのだから、収容者に対する公平な処遇を確保する必要から、原告のみならず、他の未決拘禁者に対しても同様の扱いをとらなければならず、同所の管理運営上重大な支障を生じることになるから、吉田看守長の処分には合理性がある。

第三  当裁判所の判断

一  争点1(本件ノート不交付措置の違法性)について

1  証拠(乙四ないし六、原告本人)及び弁論の全趣旨によると、本件ノート不交付措置の経緯について以下の事実が認められる。

(一) 平成元年三月九日、原告は、東京拘置所へ移送され、同所の一般的な扱い(領置事務及び物品検査の必要から、被収容者が同所に携有した私物品は、洗面用具等の日常必需品を除き、一旦すべてを領置し、被収容者からの後日の舎下げ出願をもって交付する。)に従って、原告が同所に携有したノート、筆記具等を領置し、同年三月一〇日、原告を収容する舎房において、担当職員が原告に対し、本件所内心得に基づき所内生活において遵守しなければならない事項を告知した。

(二) 同年三月一四日、甲野花子から原告に対して本件ノートの差し入れがあったので、担当職員が、原告に対して願箋「ノート使用許可願」及び願箋「房内筆記届」をもって交付を出願するように指導したところ、原告は、右「房内筆記届」の心得事項「筆記は、起床から就寝までの間とする。」が原告の筆記時間を不当に制限するものであると考え、また、右「ノート使用許可願」の遵守事項「筆記の内容が次の各号に該当し、拘禁目的に反し、又は施設の管理上著しく支障があると認められるときは、その部分を削除し、又は抹消する。」が職員の恣意的な処分を容認するような記載であると考えて不満に思い、担当職員に対して、「このような願箋には署名指印できない。」と述べて、右願箋に署名指印をせず、右願箋による出願をしなかったため、本件ノートは原告に交付されなかった。

(三) 原告は、この後も「ノート使用許可願」を提出しないので、東京拘置所長は、原告に対しては、領置されている原告のノート等を記載のためには交付していないが、訴訟上の必要を認める範囲で、罫紙等について、例外的にその使用を許可した。また、東京拘置所本来の運用であれば、「房内筆記届」により筆記の心得事項の遵守を原告に誓約させた上で、原告に筆記具を交付するところ、原告の態度からすると、原告が「房内筆記届」による誓約を行うとは考えられなかったことから、東京拘置所長は、例外的措置として、平成元年三月一五日、「房内筆記届」を徴することなく、原告にボールペンを交付した。

2  未決勾留は、刑事訴訟法の規定に基づき、逃亡又は罪証隠滅の防止を目的として、被疑者又は被告人の居住を監獄内に限定するものであり、監獄は、多数の被拘禁者を外部から隔離して収容する施設であるため、右施設内でこれらの者を集団として管理するにあたっては、内部における規律及び秩序を維持し、その正常な状態を保持する必要があるから、未決勾留により拘禁された者は、身体的行動の自由を制限されるのみならず、前記逃亡又は罪証隠滅の防止の目的及び監獄内の規律及び秩序維持のために必要かつ合理的な範囲において、それ以外の行為の自由をも制限されることを免れないのであり、このことは未決勾留そのものが予定するものである。未決勾留により監獄に収容された者の物品の取扱については、入所時に携有した物品は原則として領置され、拘置所の許可がなければこれを所持することができないとされている(監獄法五一条一項、五三条一項、同法施行規則一四八条)が、この制限は、拘置所内の規律、秩序維持の観点からの制限であり、逃亡及び罪証隠滅を本来の目的とする未決拘禁が予定しているもので、合理的な制限であると認めるのが相当である。そして、具体的にどのような場合に、領置を解除して、未決勾留者に物品を所持させるかについては、当該未決勾留者の状態、拘置所内の保安、規律維持の観点から決することであるから、一次的には、拘置所内の事情に精通している拘置所長の自由裁量に属するというべきである。

3  拘置所内でのノートの使用は、在監者の思考を補助し、在監者の思想等を形に表すことになるため、在監者の思想、表現、教育の面からも、また、未決勾留者にとっては訴訟の準備をなすのに有用であるため、刑事被告人としての権利の面からも、重要なものであると認められるが、他方、未決勾留者は、判決を受けるまでの心の動きなどをノート等に記載することも多く、また、拘置所内での物品授受の方法や拘置所内の警備体制など拘置所の安全や所内の秩序維持に関する記載をなすこともあるため、拘禁目的の達成、施設管理運営の観点から、未決勾留者のノートを検閲して、未決勾留者の内心を知って自殺自傷を防止したり、未決勾留者の保釈後に、拘置所の安全や所内の秩序維持に対する侵害行為を誘発したり、助長したりするおそれがある記述を抹消する必要がある。これらの点からすると、願箋「房内筆記届」及び願箋「ノート使用許可願」に記載されている遵守事項は、拘禁目的の達成、施設管理運営の観点からいずれも合理的なものであり、未決拘留者に対して、これら遵守事項を守る旨誓約させてノートや筆記具等の使用を許可するという扱いも合理的なものであると認められる。

したがって、願箋「ノート使用許可願」の遵守事項の「筆記の内容が次の各号に該当し、拘禁目的に反し、又は施設の管理上著しく支障があると認められるときは、その部分を削除し、又は抹消する。」という部分に不満があって右願箋を提出しなかった原告に対してノート使用を許可しなかった東京拘置所長の措置が違法であるとは認められない。

4  以上から、事前にノート使用について検閲を認める旨の願箋を記載しなかった原告に対して本件ノートを交付しなかったという扱いが違法であることを前提とする原告の請求にはいずれも理由がない。

二  争点2(本件雑誌等不交付措置の違法性)について

1  証拠(乙二、三、七、八、原告本人)及び弁論の全趣旨によると、本件雑誌等不交付措置の経緯について以下の事実が認められる。

(一) 原告を東京拘置所に収容した翌日の平成元年三月一〇日、担当職員が原告に対し、東京拘置所での一般的な事務手続にしたがって、雑誌等について事前に抹消や切り取りの包括的な同意についての願箋「交付願(様式二)」を示し、各同意事項を同意するよう促した。原告は、右願箋では、閲読に支障があるか否かの判断を東京拘置所が行う形になっている上に、図書閲読を求める文言と、東京拘置所が支障があると思う部分についての抹消に同意する文言とが一体であるために、東京拘置所当局の恣意的運用を認めることになってしまうと考え、東京拘置所職員の指導にも翻意しないで、「浦和拘置所で閲読不許可になったパンフレット等について訴訟を提起するつもりなので署名・指印はしない。」などと申し述べて署名・指印をしなかった。

原告が願箋「交付願(様式二)」の提出を拒否したため、東京拘置所長は、原告が閲読を希望する雑誌、パンフレットの閲読に支障がある場合には事前の包括的な同意に基づいて当該部分を切り取り又は抹消する扱いができなくなったので、必要な都度、本来雑誌を除く私本について個別的に抹消等の同意を得るための願箋である願箋「交付願(様式一)」をもって、原告に同意を求める例外的扱いをすることにした。

(二) 平成元年三月二七日、原告が購入した雑誌「週刊読売(三月二六日号)」について、同所長は、取扱規程及び運用通達に基づき、二箇所に規律を害するおそれのある内容が認められると判断し、原告に対し、願箋「交付願(様式一)」をもって、当該箇所の抹消に同意することを求めたが、原告は、願箋「交付願(様式二)」と同様、願箋「交付願(様式一)」の記載内容に不満があるとして署名・指印を拒否したため、右雑誌全体が交付されずに領置された。

(三) 同年三月三一日、原告に対し郵送で差し入れされた「天皇制打倒へ」と題するパンフレットについて、同所長は、取扱規程及び運用通達に基づき、一箇所に規律を害するおそれのある内容が認められると判断し、原告に対し願箋「交付願(様式一)」をもって、当該箇所の抹消に同意することを求めたが、原告は、このときも、願箋「交付願(様式一)」の記載内容に不満があるとして署名・指印を拒否したため、右パンフレット全体が交付されずに領置された。

(四) 同年四月一〇日、原告が購入した雑誌「週刊読売(四月一六日号)」について、被告が取扱規程及び運用通達に基づき、二箇所に規律を害するおそれのある内容が認められると判断し、原告に対し願箋「交付願(様式一)」をもって、当該箇所の抹消に同意することを求めたが、原告は、このときも、願箋「交付願(様式一)」の記載内容に不満があるとして署名・指印を拒否したため、右雑誌全体が交付されずに領置された。

(五) 原告は、同年七月一七日、不許可処分となった本件雑誌等を鈴木正美宛に郵送する手続きをした。

2  図書の閲読は、在監者が外部の情報を受け、内省の機会を与えられるという意味からも、表現の自由、思想の自由に関わるものとして重要であるが、これも前記一、2のとおり無制限なものではなく、逃亡及び罪証隠滅の防止という未決勾留の目的のためのほか、拘置所内の規律及び秩序維持のために必要とされる場合にも一定の制限を加えられるものである。未決勾留者に対し、どのような場合において閲読の制限ができるかについは、閲読を許すことによって当該未決勾留者の逃亡及び罪証隠滅のおそれが生じる相当の蓋然性が存するかどうか、拘置所内における規律及び秩序の維持に放置することができない程度の障害が生じる相当の蓋然性が存するかどうか、及びこれらを防止するためにどのような内容、程度の制限措置が必要と認められるかを判断すべきもので、これは、一次的には、拘置所内の実情に通じている拘置所長による具体的状況のもとにおける裁量的判断が尊重されるべきものであるから、拘置所長は、事前に未決勾留者が閲読する図書を検閲して、未決勾留者に閲読を許すか否かを判断することができると認められる。そして、拘置所長が、閲読に支障があると認めた部分のある図書については、未決勾留者の表現の自由、思想の自由をできる限り尊重するという見地から、閲読に支障があると認めた部分に限って抹消又は切り取りを行って閲読を制限すべきであるが、これには所有権侵害の面があることから、所有者である未決勾留者の同意が得られれば、閲読に支障のある部分を切り取り、又は抹消して未決勾留者に閲読を許可することができると解するべきであり、この観点から定められた取扱規程三条五項には合理性がある。そして、図書の抹消又は切り取りについては、未決勾留者のためにも、拘置所の事務処理上の便宜の点からも、書面を徴して抹消又は切り取りの同意を得るべきであり、未決勾留者は、拘置所に多数いることからすると(東京拘置所での一日あたりの収容者は約一一〇〇人である。)、この同意を事前に、包括的に求めることには合理性があるというべきであり、この考えに基づいて定められた運用規程一一条の扱い(願箋「交付願(様式一)」、願箋「交付願(様式二)」に記載させるという取扱)は、合理的なものであると認められる。これら願箋を提出しない者に対しては、拘置所長としては、当該図書全体を交付しないことになるが、これは、未決勾留者が願箋を提出しなかったために受ける不利益であり、願箋を徴する扱いに合理性が認められる以上、当該未決勾留者が甘受すべきものである。

3 本件では、前記1のとおり、東京拘置所は、まず、原告に雑誌等について、包括的な抹消の同意をする旨の願箋「交付願(様式二)」の提出を求め、原告がそれを拒否したため、個々の出版物を交付するに当たり抹消の必要性があったときに、原告に改めて抹消の同意をする旨の願箋「交付願(様式一)」の提出を求めたが、原告がそれも拒否したために、原告に当該雑誌等を交付しなかったものである。原告は、抹消や切り取りに同意せず(なお、原告は、切り取りには同意したと主張するが、前記のとおり図書等の抹消又は切り取りについては、口頭でなく、書面をもって行わせることには一定の合理性がある。)、願箋「交付願(様式一)」の提出を拒否したのだから、東京拘置所長としては、本件雑誌を原告に交付することができず、本件雑誌全体を不交付とせざるを得なかったのであるから、東京拘置所長の措置が違法であるとは認められない。

4  以上から、その余の点を判断するまでもなく、事前に願箋を書かせようとし、願箋を記載しなかった原告に本件雑誌を交付しなかった扱いが違法であることを前提とする原告の請求には理由がない。

三  争点3(本件メモ携行不許可処分の違法性)について

1  証拠(乙九ないし一一、原告本人)及び弁論の全趣旨によると、本件メモ携行不許可処分の経緯について、以下の事実が認められる。

(一) 原告は、平成元年四月一六日、担当職員に対し、翌一七日の刑事公判にメモ用紙を携行したい旨申し出たが、願箋「メモ用紙携行許可願」には、使用したメモが検閲を受けることを承諾する文言が含まれており、また、弁護人と法廷でメモをやりとりできないことになっていたために、被告人としての防御権が侵害されると不満に思い、別紙5のとおり、用紙に印刷されている心得事項①の「(弁護人を含む)」・「必ず持ち帰る」、同②の「閉廷後直ちに職員に差し出す」及び同④「記入した用紙には検印を受ける」の部分を二本線で削字した上で署名・指印し、提出した。翌一七日、原告を所管する処遇係長田中敏夫(以下「田中処遇係長」という。)が原告に削字しないように指導したところ、原告は、右記載は被告人の防御権を侵害するものであり、認めることが出来ないと言って書き直しを拒否したために、吉田看守長は、原告の出願を不許可とする処分を行い、原告は同月一七日の公判にメモ用紙を携行しなかった。

(二) 原告は、同月一八日、担当職員に対し、翌一九日の刑事公判にメモ用紙を携行したい旨申し出て、(1)と同様の理由で、願箋「メモ用紙携行許可願」中、別紙6のとおり、用紙に印刷されている心得事項①の「(弁護人を含む)」・「必ず全部持ち帰る」、同②の「閉廷後直ちに職員に差し出す」及び同④「記入した用紙には検印を受ける」の部分を一本線で削字した上で署名・指印し提出した。田中処遇係長が原告に削字しないように指導したが、原告は書き直さなかったため、吉田看守長は、原告の出願を不許可とする処分を行い、原告は同月一九日の公判にメモ用紙を携行しなかった。

(三) 原告は、同年五月一八日、不服を申し立てるため所長面接を申請したが、区長は、同年五月二三日、右申請に対して「公判廷へのメモ用紙携行を不許可にした件につき誓約書を書いたときに告知のとおり。」との回答をした。

(四) 原告は、同年六月一三日、担当職員に対し、翌一四日の刑事公判にメモ用紙を携行したい旨申し出たが、願箋「メモ用紙携行許可願」の記載内容に対する不満のみならず、そもそもメモ携行についてこのような制約を課すこと自体がおかしいと考え、別紙7のとおり、用紙に印刷されている前書き部分の「次のことを守りますから」及び心得事項①ないし④の部分全体を斜線で削字した上で署名・指印し提出した。田中処遇係長が原告に削字しないように指導したが、原告は、書き直さなかったため、吉田看守長は、原告の出願を不許可とする処分を行い、原告は同月一四日の公判にメモ用紙を携行しなかった。

2  法廷へのメモ携行は、刑事被告人の防御活動のために重要なものである上、刑事被告人は、本来、法廷では裁判長の訴訟指揮権のもとにおかれるものではあるが、未決勾留によって監獄に収容されている者は、法廷においても在監者であることにはかわりはないのであるから、法廷へのメモ携行についても、在監者に対する罪証隠滅及び拘置所内の秩序維持などの観点からの拘置所長による制約は許されると解される。

未決勾留者が公判期日に出廷する場合のメモの取扱について、法及び規則では直接の規定は置いていないが、未決勾留者が物を持って法廷に出廷することは、物を外部に寄託するという宅下げの性格を有し、また、未決勾留者が法廷でメモを用いて弁護人等と筆談を行う可能性もあることからすると、これは、信書の授受の性格も有すると認められるから、法廷へのメモ携行については、刑事被告人の防御権を侵害しない限度で、監獄法の宅下げ及び信書の授受の規制が及ぶと解するのが相当である。

3  東京拘置所では、メモ携行については、願箋「メモ用紙携行許可願」を徴しているが、右願箋に記載されている「用紙を綴じておき、他人(弁護人を含む)とやりとりなどせず、必ず全部持ち帰る。」との遵守事項については、当該メモ用紙を法廷において弁護人に渡してしまう(法廷終了後に弁護人らが当該メモ用紙を持ち帰る)ことのみならず、弁護人と法廷でメモを見せあって筆談することまでも禁止するもののようにも読むことができる。そして、裁判長が訴訟指揮権に基づいて制限するのは別として、拘置所長が、被告人が弁護人と法廷でメモを見せあって筆談することまで禁止することは、拘禁目的の達成、施設管理運営の観点を考慮しても、刑事被告人の訴訟活動に対する不必要な制約であるといわざるを得ない。東京拘置所では、弁護人と法廷でメモを見せあって筆談することは拘置所長が行う制限には含まれないとの解釈をしており、在監者から願箋の記載内容について具体的に質問があればそのように返答することにしているから、在監者は、「他人(弁護人を含む)とやりとりなどせず」の意義に疑問があれば、担当職員に質問することができることになる。しかし、このように、願箋の記載内容だけでは、本来禁止すべきでない法廷での弁護人とのメモを見せあっての筆談までもが禁止されているかのように読むことができ、その正確な意味を知るためには職員に質問しなければならないことになるから、本件願箋の「他人(弁護人を含む)とやりとりなどせず」との記載は適当でないところが含まれている。

しかしながら、右の点を除くと、願箋「メモ用紙携行許可願」に記載されている遵守事項は、いずれも拘禁目的の達成、施設管理運営の観点からすると合理的制約であると認められ、これらの遵守事項を守ることを条件にメモ用紙の携行を許可するという扱いにも合理性があると認められる。

4 本件では、原告は、前記1のとおり、願箋「メモ用紙携行許可願」が種々の遵守事項を定めていること、この遵守事項の中で、記入した用紙を直ちに拘置所職員に交付して検印を受けることが含まれていることが不満であり、また、右願箋を見て、弁護人との法廷での筆談まで禁止されていると考えたこともあって、願箋の遵守事項を抹消して提出したものである。原告が弁護人との法廷での筆談まで禁止されていると考えたことについては、願箋「メモ用紙携行許可願」の該当箇所の記載が前記のように不適当であることによるものと認められるものの、しかしながら、原告は、願箋に種々の遵守事項が記載されていること、そして遵守事項の中で、記入した用紙を直ちに拘置所職員に交付して検印を受けることが含まれていることが不満であったために願箋の該当箇所を抹消したのであり、原告のこの態度は、「記入した用紙には検印を受ける。」という遵守事項を守らないことを明らかに推認させるものであるから、原告が願箋記載の遵守事項を守らないおそれがあるとして、原告に対してメモ用紙携行を不許可にした処分は、その裁量権を逸脱したものであるとまでは認められない。

そうとすると、吉田看守長の本件メモ用紙携行不許可処分は、違法であるとはいえず、その違法を前提とする原告の請求にも理由がない。

四  以上の次第で、原告の請求にはいずれも理由がないから、これを棄却し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官雛形要松 裁判官永野圧彦 裁判官真鍋美穂子)

別紙<省略>

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